東京地方裁判所 昭和54年(ワ)1731号 判決 1980年11月13日
原告
日本住宅公団
右代表者総裁
澤田悌
右代理人
長島忠恕
右訴訟代理人弁護士
鵜澤晉
右訴訟復代理人弁護士
関沢正彦
被告
西園寺泰蔵
右訴訟代理人弁護士
堤重信
程島利通
主文
一 被告は原告に対し別紙物件目録記載の土地を明け渡せ。
二 被告は原告に対し別紙物件目録記載の土地につき、昭和五二年一〇月三一日の買戻を原因とする所有権移転登記手続をせよ。
三 被告は原告に対し昭和五二年一一月から別紙物件目録記載の土地明渡済みに至る月まで、一年あたり金二七万〇六〇四円の割合による金員(但し一年未満の端数が生じた場合には、一カ月につき右年額に一二分の一を乗じて得た額)を支払え。
四 訴訟費用は、被告の負担とする。
五 この判決は、第一項及び第三項にかぎり、仮に執行することができる。
理由
一 《省略》
二 次に抗弁について検討するに、被告本人尋問の結果中には、右抗弁に符合する供述部分があるが、
1 抗弁1について
(一) (二) 《省略》
(三) また原告が建築工事を延期することを承諾した旨の供述部分についても、被告はこの点について明確な供述をなしてないうえ、補強する証拠もなく、かえつて《証拠》によれば、被告が本件土地上に住宅の建設に着工しないため、原告は、昭和四九年三月二二日ころ、被告に対し、住宅建設期限が同年六月四日となつているのに建設に着工していないので、事情を説明して欲しい旨の通知書を送付したのに、被告は原告の事務所に訪れたことがなかつたこと、その後、本件土地の買戻期限が近づいたので、原告は、昭和五二年九月、被告に対し、本件土地に原告のために売買予約の仮登記を付けることと第三者の抵当権を抹消することを条件に、買戻権を実行しない旨を提案したところ、被告がこれを断つたことが認められる。
2 抗弁2について
(一) 根抵当権の設定は建築資金を得るために必要であつたとの供述部分については、被告が買戻期限までに抵当権を設定してはならないことが契約条項になつていたことは、前記認定のとおり、明らかであり、《証拠》によれば、被告は、本件土地につき、昭和五〇年一月三一日、抵当権者を訴外株式会社山陰合同銀行、債務者を被告とする債権額五〇〇〇万円の抵当権設定登記を、昭和五一年三月二九日、根抵当権者を訴外三菱銀行、債務者を株式会社サングリーンとする極度額金二〇〇〇万円の根抵当権設定登記をそれぞれなしたが、いずれも、同年二月五日及び同年八月四日、買戻特約がついているとの理由で、抹消登記手続がなされたうえ、前記認定の極度額金三〇〇〇万円の根抵当権が設定されていること、サングリーン及び西園寺書店の代表取締役はいずれも被告であることが認められ、右事実からすると、被告は事業資金のため、本件土地に抵当権を設定したものと推認することができる。なお、被告の供述においても、山陰合同銀行に対する債務額のうち、金三〇〇〇万円に相当する分は会社の借財のためである旨述べており、被告の前記供述部分は信用することができない。
(二) 原告が被告の根抵当権を抵当権に変更すれば建築を承諾したとの点については、これを認めるに足りる証拠はない。
3 抗弁3について
(一) 《証拠》によれば、被告は妻と共に、妻名義の四部屋あるアパートに居住しており、本件土地で被告の住宅を建設する必要性が大きいということができない。
(二) 《証拠》によれば、原告は住宅困窮勤労者のために集団住宅及び宅地の大規模供給を目的とする法人であり、本件土地を含む洋光台団地の分譲は右目的にそつたものであることが認められ、原告に本件土地使用の必要性がないとしても、これだけでは、原告の請求が権利濫用であると認めることはできない。
4 以上によれば、権利濫用の根拠としての被告主張の各事実はいずれも認めることはできず、他に被告の抗弁を認めるに足りる証拠がない以上、被告の主張は理由がない。
三 よつて原告の被告に対する請求はいずれも理由があるからこれを認容
(裁判官 小松峻)